ドラッグストアのベビー用品の棚には「赤ちゃんにも使える」「ノンケミカル」「紫外線吸収剤不使用」と書かれた日焼け止めが並んでいます。隣の大人用の棚には、同じメーカーの、同じSPF表示の製品が、半分くらいの値段で置かれていることもあります。ここで多くの保護者が立ち止まります。中身は本当に違うのでしょうか。違うとしたら、どこが違うのでしょうか。
結論を先に書きます。子どもの皮膚と大人の皮膚には、実際に測られた構造の差があります。ただし「だから吸収剤入りは子どもに危険で、散乱剤なら安全」という一段飛ばしの結論までは、現在の公開データでは届きません。差があるのは構造と制度であり、健康被害の比較試験ではないのです。
この記事では、乳幼児の角層の薄さと体表面積比という二つの身体的な根拠、紫外線吸収剤と紫外線散乱剤という二つの分類が日本の法令でどう扱われているか、そして吸収剤の体内移行について米国食品医薬品局が実施した二つの臨床試験の数値を、順番に確認します。個別の商品名は出しません。どの製品が優れているという主張もしません。
本文に出てくる数値、日付、通知番号、試験条件は、執筆時にすべて一次資料または公的機関の公開文書で確認しました。確認できなかった論点は、表現をやわらげるのではなく落としました。たとえば環境省の紫外線環境保健マニュアルは、本文を機械的に読み取れなかったため引用していません。最後に、本記事のどの主張がどれくらい強いのかを自己採点した表を置いています。
当店は化粧品と美容機器を扱う立場です。だからこそ、自社のカテゴリーに都合の悪いところも同じ大きさの字で書きます。先に一つ書いておきます。化粧品である日焼け止めについて、病気を防ぐ、治す、改善するという説明はできません。これは当店が扱う商品にもそのまま当てはまります。
子どもの肌は、大人の肌と何がどう違うのですか
測定されている差は主に二つで、角層が薄いことと、体重あたりの体表面積が大きいことです。どちらも推測ではなく、生体での測定値が公開されています。
角層(かくそう、角質層とも書きます。皮膚のいちばん外側にある、死んだ細胞が積み重なった層のことです)の厚さについては、スタマタスらが2010年に Pediatric Dermatology 誌で報告した生体内共焦点顕微鏡の測定があります。対象は健康な母親20人(25歳から43歳)と、その実子である生後3カ月から24カ月の乳幼児20人で、測定部位は大腿の下部でした。乳幼児の角層は成人より約30パーセント薄く、表皮全体も約20パーセント薄いという結果でした。角層を構成する角層細胞(かくそうさいぼう、角層を作っている平たい死細胞のことです)は約20パーセント小さく、顆粒層の細胞は約10パーセント小さいとも報告されています。この数値は、ラーマとレーンが2022年に Pharmaceutics 誌で発表した乳児の皮膚バリア機能のレビューでも、同じ30パーセントという形で引用されています。
もう一つの差は体のかたちの問題です。米国の有害物質・疾病登録庁(ATSDR)が公開している小児環境保健の教材には、新生児の皮膚表面積と体重の比は成人の約3倍であると書かれています。同じ面積に同じ濃度のものを塗っても、体重1キログラムあたりで見た負荷は子どものほうが大きくなる、という単純な算術です。この教材は2023年5月25日時点の内容として公開されています。
ここから先は、都合の悪い話です。角層が薄いことと、実際に物質が多く体内に入ることは、同じ命題ではありません。先に挙げたラーマとレーンのレビューは、満期産で生まれた新生児や乳児の分子透過は成人と同程度だと報告した研究も存在すると明記しています。1983年に Journal of the American Academy of Dermatology に載った腹部皮膚の比較では、生後3カ月未満、生後3カ月から11歳、成人の三群で角層の厚さに有意差は出ませんでした(本稿では要旨の記述のみを確認し、全文は参照できていません)。レビューが整理した文献全体の幅で見ると、乳児の角層は5.6マイクロメートルから35.4マイクロメートル、成人は15.2マイクロメートルから35.4マイクロメートルで、範囲は大きく重なっています。
はっきり差が出るのは早産児です。同じレビューによると、アルコールの吸収は満期産児の最大50倍、サリチル酸は最大1000倍という桁の違いが報告されています。経皮水分蒸散量(けいひすいぶんじょうさんりょう、皮膚から水分が蒸発して失われる速さのことです)も、ハンマルンドとセディンの1979年の報告では早産児が最大で毎時毎平方メートル75グラム、満期産児は6から8グラムでした。ニコロフスキーらの2008年の報告では、乳児50人の前腕と背部下方の測定値が成人より有意に高く、p値は0.01未満でした。つまり「赤ちゃんの肌は吸収しやすい」という説明が疑いなく当てはまるのは早産児であり、満期産の乳幼児については文献が一枚岩ではないのです。
| 項目 | 乳幼児 | 成人 | 測定法と出典 |
|---|---|---|---|
| 角層の厚さ | 成人より約30パーセント薄い | 基準 | 生体内共焦点顕微鏡、母子20組、生後3から24カ月、Stamatas 2010 |
| 表皮の厚さ | 成人より約20パーセント薄い | 基準 | 同上 |
| 角層の厚さ(文献全体の幅) | 5.6から35.4マイクロメートル | 15.2から35.4マイクロメートル | 文献レビュー、Rahma and Lane 2022 |
| 腹部角層の比較(1983年) | 有意差なし | 有意差なし | 生後3カ月未満、3カ月から11歳、成人の三群比較、JAAD 1983(要旨のみ確認) |
| 経皮水分蒸散量 | 成人より有意に高い(p<0.01、乳児50人) | 基準 | Nikolovski 2008、Rahma and Lane 2022内の記述 |
| 皮膚表面積と体重の比 | 成人の約3倍(新生児) | 基準 | ATSDR 小児環境保健教材、2023年5月25日時点 |
| 早産児の経皮吸収 | アルコール最大50倍、サリチル酸最大1000倍 | 該当せず | Rahma and Lane 2022が引用する既報 |
角層がどれくらい薄い層なのかという話は、化粧品の浸透という別のテーマともつながっています。角層そのものの厚さと、そこを天井として扱う日本の広告ルールについては化粧水は肌に浸透するのかで扱いました。
紫外線吸収剤と紫外線散乱剤は、法令ではどう区別されているのですか
日本の法令が定義しているのは紫外線吸収剤だけで、紫外線散乱剤という区分は化粧品基準の中に存在しません。これは言葉遊びではなく、規制のかかり方そのものが違うという話です。
化粧品基準(平成12年9月29日厚生省告示第331号)の第4条は、こう書いています。「化粧品に配合される紫外線吸収剤(紫外線を特異的に吸収する物であって、紫外線による有害な影響から皮膚又は毛髪を保護することを目的として化粧品に配合されるものをいう。)は、別表第4に掲げる物でなければならない。」つまり紫外線吸収剤は、国があらかじめ名前を挙げた成分(ポジティブリスト、使ってよいものを列挙する方式のことです)の中からしか選べません。
別表第4には、成分ごとに100グラム中の最大配合量が書かれています。たとえばオクトクリレンは、すべての化粧品で100グラム中10グラムまでです。アボベンゾンの名前で知られる4-tert-ブチル-4'-メトキシジベンゾイルメタンも10グラムまでです。オキシベンゾンの名前で知られる2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノンは、洗い流さない化粧品では100グラム中5.0グラムまで、粘膜に使用されることがある化粧品でも5.0グラムまでで、洗い流すものには上限の定めがありません。表の注記には「空欄は、配合してはならないことを示し、○印は、配合の上限がないことを示す。」とあります。
そして、散乱剤として使われる酸化チタンと酸化亜鉛は、この別表第4に載っていません。載っていないから使えないのではありません。第4条が規制の対象にしている「紫外線を特異的に吸収する物」という枠の外で扱われているため、吸収剤のような成分別の上限表の管理を受けていないのです。日本の制度上、吸収剤には成分ごとの数値の上限があり、散乱剤には別表第4の上限がない、この非対称が「ケミカル」と「ノンケミカル」という売り場の言葉の裏側にあります。
海外は違う整理をしています。米国食品医薬品局(FDA)は、酸化亜鉛と酸化チタンについて、濃度25パーセントまでなら一般に安全で有効(GRASE)と提案できる安全性データがあるとしています。一方で、シノキサート、ジオキシベンゾン、エンスリゾール、ホモサレート、オクチノキサート、オクチサレート、オクトクリレン、パディメートO、スリソベンゾン、オキシベンゾン、アボベンゾンといった成分については、追加のデータが必要だという立場です。パラアミノ安息香酸(PABA)とトロラミンサリチル酸については、FDAは「これらの有効成分を日焼け止め医薬品に使用することに伴うリスクは、その便益を上回る」と書いています。この内容は2021年9月24日付の提案命令(OTC000008)として公開され、FDAの質疑応答ページは2026年9月10日現在の内容として同じ整理を示しています。
欧州連合では、2022年7月7日の欧州委員会規則(EU)2022/1176が化粧品規則1223/2009の附属書VIを改正し、オキシベンゾン(ベンゾフェノン-3)の上限を製品カテゴリーごとに引き下げました。消費者安全科学委員会(SCCS)の見解にもとづき、ボディ用のクリームやスプレーでは2.2パーセントまで、同じ処方の中で製品自体の保護目的に0.5パーセント併用する場合は1.7パーセントまでとされています。同じ成分が、日本の洗い流さない化粧品では5.0グラム毎100グラムまで認められていることと比べてください。同一成分の上限が国によって2倍以上ずれているという事実は、どちらかが間違っているのではなく、安全域の置き方が規制当局ごとに違うということを示しています。
| 地域 | 上限 | 条件 | 根拠文書 |
|---|---|---|---|
| 日本 | 100グラム中5.0グラム | 洗い流さない化粧品。洗い流すものは上限の定めなし | 化粧品基準 別表第4(厚生省告示第331号) |
| 欧州連合 | 2.2パーセント | ボディ用クリームおよびスプレー。処方保護目的で0.5パーセント併用時は1.7パーセント | 規則(EU)2022/1176、SCCS見解 |
| 米国 | 数値の上限提示なし | 追加データが必要な成分としてGRASE判断を保留 | FDA提案命令 OTC000008(2021年9月24日) |
| 参考:酸化亜鉛と酸化チタン | 25パーセントまで(米国の提案) | 他の条件を満たす場合にGRASEと提案 | FDA質疑応答ページ、2026年9月10日現在 |
「ノンケミカル」は法令用語ではありません
ノンケミカルという表示には、法令上の定義がありません。化粧品基準が定義しているのは紫外線吸収剤だけで、散乱剤もノンケミカルも出てきません。業界の慣行として「紫外線吸収剤を配合していない」という意味で使われている表現です。
無配合であること自体を安全の根拠にする表示には、別のルールがかかります。化粧品公正取引協議会の「化粧品の表示に関する公正競争規約運用基準」(令和6年4月17日施行)は、第5第2項で「無配合を理由に安全であるかのような表示又は他社の商品を誹謗するかのような表示をしないものとする。」と定め、避けるべき例として「無添加ですから安心してお使い下さい。」「無添加だから肌質不問」を挙げています。「吸収剤不使用だから安心」という言い方は、科学的に粗いだけでなく、日本の表示ルールの側でも推奨されていないのです。
紫外線吸収剤は、本当に体の中に入るのですか
入ります。入ることは測定されていて、しかも量は少なくありません。ただし「入ること」と「害があること」は別の問題で、後者はまだ結論が出ていません。
マッタらが2019年に JAMA 誌(321巻21号2082から2091ページ)で報告した非盲検ランダム化試験では、健康な成人24人(23人が完了)を4製品の群に6人ずつ割り付け、体表面積の75パーセントに1平方センチメートルあたり2ミリグラムの日焼け止めを1日4回、4日間塗布しました。被験者は屋内で過ごし、7日間にわたって採血されました。最高血漿中濃度の幾何平均値は、アボベンゾンが1.8から4.3ナノグラム毎ミリリットル、オキシベンゾンが169.3から209.6ナノグラム毎ミリリットル、オクトクリレンが2.9から7.8ナノグラム毎ミリリットル、エカムスルが1.5ナノグラム毎ミリリットルでした。
翌年の試験は規模が大きくなりました。マッタらが2020年に JAMA 誌(323巻3号256から267ページ)で報告したランダム化試験は48人を対象に、同じ塗布条件で6成分を調べています。主要評価項目のアボベンゾンの最高血漿中濃度は、ローションで7.1ナノグラム毎ミリリットル(変動係数73.9パーセント)、エアゾールスプレーで3.5、非エアゾールスプレーで3.5、ポンプで3.3でした。オキシベンゾンはローションで最大258.1ナノグラム毎ミリリットル(変動係数53パーセント)、エアゾールスプレーで180.1(変動係数57.3パーセント)に達しました。
ここで数字の意味を間違えないことが大切です。FDAが示している0.5ナノグラム毎ミリリットルという値は、安全と危険を分ける境界線ではありません。これを超える全身曝露がある成分については、発がん性や生殖発生毒性を含む非臨床毒性試験を実施すべきだ、という試験要求の引き金です。2019年と2020年の試験が示したのは「追加試験が必要な水準まで吸収されている」という事実であり、「健康被害が起きている」という所見ではありません。
著者自身が挙げている限界も、そのまま書いておく価値があります。試験は屋内で行われ、熱、日光、湿度の影響を受けていません。1製品あたり6人(2019年の試験)という小さな群で、製剤の違い、肌質の違い、年齢の違いを比較するようには設計されていません。つまり、この二つの試験はいずれも成人を対象としたもので、乳幼児で同じ測定をした公開データは本稿の検索では見つかりませんでした。角層が約30パーセント薄く体重あたりの表面積が約3倍という条件を、この血中濃度に掛け算して子どもの値を推定することはできますが、それは計算であって測定ではありません。
散乱剤なら安全だと言えるのですか
現時点の公的レビューは、酸化チタンと酸化亜鉛について皮膚からの吸収を支持していません。ただし「吸収されにくい」ことは「子どもに対して吸収剤より優れている」という比較の証明にはなりません。
オーストラリアの医薬品行政局(TGA)は、日焼け止めに含まれる酸化亜鉛と酸化チタンのナノ粒子の安全性について文献レビューを公開しています(初版2006年、その後更新、公開されている最新版は2017年1月です)。その結論は「大多数の in vitro 試験(動物およびヒトの皮膚を用いたもの)と in vivo 試験は、酸化亜鉛と酸化チタンのナノ粒子がいずれも角層およびその下の層を透過しないか、ごくわずかしか透過しないことを示している」というもので、全体の結論として「現在のエビデンスにもとづけば、酸化チタンも酸化亜鉛のナノ粒子も、日焼け止めの成分として、また日焼け止めが指示どおりに使われる限りにおいて、害を生じる可能性は低い」と書かれています。欧州の消費者安全科学委員会も、ナノ型の酸化チタンと酸化亜鉛について、最終製品中25パーセントまでの使用で消費者のリスクを認めないと結論しています。
では弱いところはどこでしょうか。三つあります。
- 吸収剤入りと散乱剤のみの日焼け止めを子どもで直接比較し、皮膚トラブルや長期の健康転帰を評価したランダム化比較試験は、本稿の検索では見つかりませんでした。売り場で見かける優劣の主張は、製剤の化学と実験室の測定からの推論であって、ヒトでの直接比較の結果ではありません。
- FDAが吸収剤の多くを「追加データが必要」に分類していることは、データの空白を意味します。空白は「危険だと分かった」ではありませんが、同時に「安全だと確認された」でもありません。
- 散乱剤を使った製品が肌に合わないという訴えは実際にあります。ただしその原因が散乱剤そのものなのか、分散させるための被覆剤や乳化剤、使用感を整える基剤なのかは、成分表示からは切り分けられません。
アレルギーの頻度についても、よく引かれる数字の読み方には注意が必要です。欧州12カ国30施設が参加した多施設光パッチテスト研究(British Journal of Dermatology、2012年166巻5号1002ページ)では、光アレルギー性接触皮膚炎が疑われた患者1031人を調べ、200人(19.4パーセント)に合計346件の反応が出ました。有機系の紫外線吸収剤の中では、オクトクリレン、ベンゾフェノン-3、ブチルメトキシジベンゾイルメタンが最も多く反応を引き起こしています。ただし最も多い原因は外用の非ステロイド性抗炎症薬で、ケトプロフェンが128人、エトフェナム酸が59人でした。この19.4パーセントという数字は、光アレルギーが疑われて検査に来た人の中での割合であり、一般の子どもが吸収剤入りの日焼け止めで光アレルギーになる確率ではありません。
| 論点 | 紫外線吸収剤 | 紫外線散乱剤(酸化チタン、酸化亜鉛) |
|---|---|---|
| 日本の法令上の扱い | 化粧品基準第4条で定義、別表第4のポジティブリストと成分別上限 | 別表第4に記載なし、成分別上限の表の対象外 |
| 全身への移行 | 成人で測定済み。オキシベンゾンは最大258.1ナノグラム毎ミリリットル | 公的レビューは透過しないか最小限と評価 |
| 米国FDAの分類 | 多くが追加データ必要。PABAとトロラミンサリチル酸はリスクが便益を上回る | 25パーセントまでGRASEと提案 |
| 乳幼児での血中濃度データ | 本稿の検索では見つからず | 本稿の検索では見つからず |
| 子どもでの直接比較試験 | 本稿の検索では見つからず。優劣の主張は推論にとどまります | |
| 光アレルギーの報告 | オクトクリレン、ベンゾフェノン-3などが上位(検査受診者の集団内) | 同研究の有機系吸収剤の集計対象外 |
「子ども用」と書かれた製品は、大人用と中身が違うのですか
日本の化粧品基準に年齢による区分はなく、「子ども用」という法令上のカテゴリーも存在しません。中身が違う製品もありますが、違いの中身は法令で決まっているのではなく、各社の設計方針です。
実務的な目安を示しているのは学会です。日本臨床皮膚科医会と日本小児皮膚科学会は、保育所や幼稚園での集団生活における紫外線対策について統一見解を出しており、集団生活で使う製品の条件として、SPF15以上でPA++から+++を目安にすること、無香料および無着色の表示があるもの、プールではUV耐水性★またはUV耐水性★★の表示があるものを挙げています。同じ文書には「普通の生活においては、むやみにSPFの値の高いものを使う必要はありません」と書かれています。
日本小児皮膚科学会の質疑応答ページは、使用開始の月齢について「サンスクリーンは、小さい赤ちゃんから使うことができます。」と明記し、防御指数の目安として「防御指数は、日常の生活ではSPF15~20、PA++、海や山ではSPF20~40、PA++~+++を目安にしましょう。」と書いています。
一方、米国FDAの消費者向けページは「生後6カ月未満の乳児には日焼け止めは推奨されない」という立場で、日差しの強い時間帯を避けること、衣服で覆うことを代わりに挙げています(ページは2026年10月16日更新)。日本の学会は小さい赤ちゃんから使えると書き、米国の規制当局は6カ月未満には推奨しないと書いています。この食い違いは本稿で解消できないので、そのまま提示します。どちらも「日陰と衣服と時間帯の工夫が土台である」という点では一致していて、違うのは補助手段をいつから足すかという部分です。
| 機関 | 開始時期 | 防御指数の目安 | その他の条件 |
|---|---|---|---|
| 日本小児皮膚科学会(質疑応答ページ) | 小さい赤ちゃんから使用可 | 日常はSPF15から20、PA++。海や山はSPF20から40、PA++から+++ | 2、3時間ごとの重ね塗り |
| 日本臨床皮膚科医会・日本小児皮膚科学会(統一見解) | 集団生活での使用を想定 | SPF15以上、PA++から+++ | 無香料、無着色。プールはUV耐水性★または★★ |
| 米国FDA(消費者向けページ) | 生後6カ月未満には推奨しない | 記載は広域スペクトルと耐水性の表示ルール中心 | 日陰と衣服を優先。「防水」の表示は認められない |
吸収剤か散乱剤かより、量と塗り直しのほうが効くのですか
効きます。少なくとも、実際に得られる防御の差としては、塗る量の差のほうが大きく出ます。ここは吸収剤と散乱剤の論争よりも確実な話です。
SPFの試験は1平方センチメートルあたり2ミリグラムという塗布量で行われます。ピーターセンとウルフが2014年に Photodermatology, Photoimmunology and Photomedicine 誌で発表した文献レビューによると、実際の使用量はおよそ0.39から1.0ミリグラム毎平方センチメートルで、集中的に日光浴をする休暇中の調査でも平均0.79ミリグラム毎平方センチメートル(男性0.93、女性0.66)でした。表示されたSPFを達成するために必要な量の20から50パーセントしか塗られていない、という整理です。
子どもに塗る場面を思い出してください。嫌がって逃げる、顔をそむける、汗をかく、砂場で砂がつく、プールに入る。この条件で2ミリグラム毎平方センチメートルを維持するのは、大人の自分に塗るときより難しいはずです。吸収剤か散乱剤かで悩んだ時間の半分を、量を増やすことと塗り直しの回数に回したほうが、得られる防御は確実に増えます。
学会の統一見解は量の目安も具体的に書いています。顔ではクリームならパール粒大(7から8ミリメートル大)、液なら1円玉大を手のひらに取って塗り伸ばし、同じ量でもう一度重ね塗りする、2、3時間ごとに重ね塗りするとより効果的であるとされています。塗る順番の話はスキンケアの順番に科学的根拠はあるのかで扱いました。SPFとPAがそれぞれ何の波長域の何を測った数字なのかはUVAとUVBの数字の意味で整理しています。
日焼け止めを使うと、子どものビタミンDは足りなくなるのですか
現在の文献は一致していません。実験室の条件では減り、実生活の観察研究では減らないか、むしろ高いという結果が多い、という食い違いがあります。
ニールらが2019年に British Journal of Dermatology 誌(181巻5号907から915ページ)で発表したレビューは、1970年から2017年11月21日までの英語文献を対象に、実験的研究4件、フィールド研究3件(うち2件はランダム化比較試験)、観察研究69件を集めました。結論は、文献間で結果が矛盾しており、その原因は塗布した日焼け止めの厚さ、UVBの照射量、対象となった肌のタイプのばらつきにあるだろう、というものです。実験的研究では日焼け止めがビタミンD産生を有意に減らしましたが、観察研究の多くは関連を認めず、あるいは日焼け止めの使用が血中25水酸化ビタミンD濃度の高さと関連していました。
この食い違い自体が示していることがあります。実験室で測れる生理の変化と、人が実際に外で暮らした結果として血液に出る値は、同じ方向に動くとは限らないのです。ビタミンDの血中濃度と臨床試験の読み方はビタミンD不足の基準と試験で扱いました。
「紫外線の8割は子どものうちに浴びる」というのは本当ですか
違います。この数字は計算の読み間違いから広まったもので、実測の推定では18歳までに浴びる量は生涯のおよそ4分の1以下です。
ゴダーが2003年に Photochemistry and Photobiology 誌(77巻453ページ)で発表した解析によると、1986年以降に広まった「18歳までに生涯線量の約80パーセントを浴びる」という説明は、生後18年間に日焼け止めを適切に使えば非黒色腫皮膚がんの生涯発生率を78パーセント減らせるという数理計算の結論を、線量そのものの話として取り違えたものでした。元の計算は非黒色腫皮膚がんの発生率が紫外線量の二乗に比例するという前提にもとづいていたからです。曝露データを丁寧に見ると、米国人が18歳までに浴びる量は生涯線量の25パーセント未満で、およそ23パーセントでした。オーストラリア、英国、オランダの報告も似たパターンを示しています。
では子どもを守る必要はないのでしょうか。それは別の論点です。デニスらが2008年に Annals of Epidemiology 誌(18巻8号614から627ページ)で発表したメタアナリシスは、1300件以上の文献タイトルを確認し270件を精査したうえで、51の独立した研究集団から日焼け(サンバーン)の経験と皮膚悪性黒色腫のリスクの統合オッズ比を算出しました。日焼けの回数が増えるとリスクが上がる傾向は、小児期、思春期、成人期、生涯のすべての期間で見られました。ただし10年あたり5回の日焼けという単位で見たときにリスクの大きさが最も大きかったのは、小児期ではなく成人期と生涯の日焼けでした。つまり、子どもを守る理由は「子どものうちが決定的だから」ではなく、どの年代の日焼けもリスクに積み上がるからです。80パーセントという数字を使わなくても、結論は変わりません。
この記事のどの主張が強く、どれが弱いのですか
一番強いのは法令の条文と規制当局の文書にそのまま書いてあること、一番弱いのは「だから子どもにはこちらを選ぶべき」という比較の部分です。以下に自己採点を置きます。自社に都合の悪い行も残しています。
| 主張 | 根拠の種類 | 強さ | 弱点または留保 |
|---|---|---|---|
| 日本では紫外線吸収剤が別表第4のポジティブリスト制で、成分別の上限がある | 告示の条文(厚生省告示第331号第4条および別表第4) | 強い | なし。条文に直接書かれています |
| 酸化チタンと酸化亜鉛は別表第4に記載がない | 同じ告示の別表第4の確認 | 強い | 記載がないことは、安全性の優劣を意味しません |
| 成人で吸収剤の血中移行が0.5ナノグラム毎ミリリットルを超える | ランダム化比較試験2件(n=24、n=48) | 強い | 屋内条件、群あたり6人(2019年)、年齢差を比較する設計ではない |
| 乳幼児の角層は成人より約30パーセント薄い | 生体内共焦点顕微鏡、母子20組 | 中くらい | 単一研究。1983年の腹部比較では有意差なし。文献全体の厚さの幅は大きく重なる |
| 新生児の体表面積と体重の比は成人の約3倍 | 政府機関の教材(ATSDR) | 中くらい | 一次の測定論文ではなく、教材としての記述です |
| 酸化チタンと酸化亜鉛は皮膚を透過しないか最小限 | 規制当局の文献レビュー(TGA)とSCCS見解 | 中くらい | 公開最新版は2017年1月。破損皮膚や長期使用の条件はレビュー内の限定つき |
| 乳幼児で吸収剤の血中濃度を測った公開データがある | 該当なし | 弱い(見つからず) | 本稿の検索では発見できませんでした。成人データからの外挿は計算であって測定ではありません |
| 子どもでは散乱剤のほうが吸収剤より優れている | 該当する直接比較試験なし | 弱い(主張しません) | 推論としては成立しますが、ヒトでの比較試験がないため本記事では主張しません |
| 当店が扱う化粧品カテゴリーの立場 | 効能の範囲は法令で限定 | 弱い(自社に不利) | 化粧品である日焼け止めは、病気の予防や治療を目的とした説明ができません。転帰を比較した試験も当店は持っていません |
| 塗布量が表示SPFの前提に届いていない | 文献レビュー(実測0.39から1.0ミリグラム毎平方センチメートル) | 中くらい | 成人の調査が中心で、子どもに塗る場面の実測ではありません |
弱い根拠の扱い方については、安全そうに見えた成分が大規模試験で逆の結果を出した例をベータカロテンと喫煙者の肺がん試験で、抗酸化の主張がヒト試験でどこまで裏づけられるかをアスタキサンチンのヒト試験で扱っています。
よくある質問
赤ちゃんに日焼け止めは必要ですか
機関によって答えが違います。日本小児皮膚科学会の質疑応答ページは「サンスクリーンは、小さい赤ちゃんから使うことができます。」としています。米国FDAの消費者向けページは生後6カ月未満には推奨しないとしています。どちらも時間帯の工夫、日陰、衣服を土台に置いている点は共通なので、まずそこを固め、覆えない部分をどう扱うかはかかりつけの医師に相談するのが現実的です。
「紫外線吸収剤不使用」と書いてあれば子どもに安心ですか
その表示から安心を結論することはできません。ノンケミカルや吸収剤不使用という言葉には法令上の定義がなく、化粧品公正取引協議会の運用基準は「無配合を理由に安全であるかのような表示」をしないよう定めています。子どもで吸収剤入りと散乱剤のみを直接比較した試験も、本稿の検索では見つかりませんでした。
SPFは高いほど子どもに良いのですか
学会の統一見解は逆のことを書いています。普通の生活においてむやみにSPFの値の高いものを使う必要はなく、集団生活ではSPF15以上でPA++から+++が目安とされています。実際に効いてくるのは、塗った量と塗り直しの回数です。
日本と欧州で同じ成分の上限が違うのはなぜですか
規制当局ごとに安全域の置き方と、参照している評価書が違うからです。オキシベンゾンは日本の洗い流さない化粧品で100グラム中5.0グラム、欧州連合ではボディ用で2.2パーセント、米国では数値の上限が示されないまま追加データ待ちの分類に置かれています。同じ成分について3通りの扱いが並んでいる状態です。
血中に吸収されると書かれていましたが、使うのをやめるべきですか
FDAはそうは言っていません。質疑応答ページでは、日焼け対策は誰にとっても重要であり、日焼け止めを含む日焼け対策を続けることで日光曝露によるリスクを減らせると述べています。0.5ナノグラム毎ミリリットルという値は、追加の毒性試験を求める引き金であって、危険を示す境界線ではありません。
プールや海では何を見ればよいですか
耐水性の表示です。学会の統一見解はプールでの使用についてUV耐水性★またはUV耐水性★★の表示があるものを挙げています。米国FDAは「防水」という表示を認めておらず、耐水性の表示がある製品は40分または80分のどちらであるかを明示しなければならないとしています。
まとめ
子どもの皮膚と大人の皮膚には、生体で測られた構造の差があります。角層は約30パーセント薄く、新生児の体表面積と体重の比は成人の約3倍です。日本の法令は紫外線吸収剤だけを定義してポジティブリストと成分別の上限で管理しており、散乱剤はその表の外にあります。吸収剤の全身移行は成人で測定されていて、オキシベンゾンは最大258.1ナノグラム毎ミリリットルという値が報告されています。
ここまでは強い根拠がある話です。その先、つまり「だから子どもには散乱剤を選ぶべきだ」という一文を支える直接比較の試験は、本稿の検索では見つかりませんでした。構造の差と制度の差は確かにあり、健康転帰の比較はまだない、というのが2026年10月時点の正確な現状です。そしてその空白を埋めるより先に、塗る量を2倍にして2、3時間ごとに塗り直すほうが、得られる防御は確実に増えます。
本記事は情報提供を目的としたものであり、疾病の診断・治療・予防を目的としたものではありません。
出典
- 化粧品基準(平成12年9月29日厚生省告示第331号)第4条および別表第4、厚生労働省法令等データベース 厚生労働省法令等データベース 化粧品基準
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