スキンケアの順番の話は、いつの間にか宗教論争のようになりました。化粧水が先か美容液が先か、日やけ止めは保湿の前か後か、LEDマスクを使う日は何も塗らないほうがよいのか。検索すれば断定的な答えはいくらでも出てきます。ただ、その答えの後ろに試験のデータが置かれていることは、ほとんどありません。
この記事では、順番という論点だけを切り出して、一次資料にあたれるものとあたれないものを分けました。結論を先に書きます。順番そのものを直接比べた臨床試験はきわめて少なく、見つかった一本は「差はなかった」と報告しています。ところが、皮膚に届く薬物の量を実験室で測ると、製品の組み合わせと順番で最大五倍ほどの開きが出ます。臨床の指標では差が出ず、皮膚に届く量では差が出る、というのが現時点の到達点です。
私たちは美容機器と化粧品の両方を扱う立場です。だからこそ、自社の商品カテゴリーに都合の悪い部分も同じ大きさの字で書きます。とくにLEDと塗るものの前後関係については、比較試験が見つからなかったとそのまま書きます。
本記事の数値、日付、法令の条番号は、執筆時にすべて一次資料または公的機関の公開文書で確認しました。確認できなかった論点は、表現をやわらげるのではなく落としました。最後に、本文中のどの主張がどれくらい強いのかを自己採点した表を置いています。
スキンケアの順番そのものを比べた臨床試験はあるのですか
一本だけ見つかりましたが、それは化粧品の試験ではなく、小児の湿疹治療の試験でした。NgらがPediatric Dermatology誌2016年33巻2号160から164頁に報告した無作為化試験です。生後4か月から5歳までの中等症から重症のアトピー性皮膚炎の患者46名を二群に分け、一方は保湿剤を塗ってから15分後に外用ステロイドを、もう一方は外用ステロイドを塗ってから15分後に保湿剤を、1日2回、2週間続けました。
結果は、湿疹面積重症度指数、罹患体表面積の割合、かゆみスコアのいずれにも統計学的に有意な差がありませんでした。著者らの結論は「順番は問題にならず、保護者は好きな順番で塗ってよい」というものです。
ここで注意が必要なのは、この試験が何を比べていないかです。被験者は46名、観察期間は2週間、対象は乳幼児の湿疹、使ったのは医薬品である外用ステロイドと保湿剤でした。化粧水と美容液とクリームを比べたわけではありませんし、成人の美容目的の使用を調べたものでもありません。順番に関する最良の臨床エビデンスが、化粧品ではなく小児の湿疹治療から借りてきたものだという事実そのものが、この分野のデータの薄さを表しています。
| 研究 | デザイン | 規模 | 測ったもの | 結果 |
|---|---|---|---|---|
| Ng 2016(Pediatr Dermatol 33巻2号) | 無作為化比較試験、ヒト、2週間 | 46名(生後4か月から5歳) | EASI、罹患体表面積、かゆみ | 群間差なし(p値0.05超) |
| Beebeejaun 2023(Skin Health Dis 3巻3号 e215) | ex vivoフランツセル、各条件6反復 | ヒト摘出皮膚、24時間 | モメタゾンフランカルボン酸エステルの透過量 | 順番と相手製品で最大約5倍差、先に保湿剤だと最大2.5倍減(p値0.05未満) |
| Murphy 2000(J Am Acad Dermatol 43巻2号) | 対照をおいた臨床試験、8群 | 虫よけと日やけ止めの前後順を含む | 虫よけの有効性 | 日やけ止めを併用しても虫よけの効果は変わらず |
| Charrasse 2025(Parasites and Vectors) | ex vivoヒト皮膚、計算病理 | 生検3検体(1提供者)と3検体(3提供者)、核1,911,251個を解析 | UVB照射後の細胞変化 | 日やけ止め単独では防御、虫よけを重ねると防御が有意に低下(p値0.05未満) |
皮膚に届く量も、順番で変わらないのですか
こちらは変わります。しかも、想像よりはるかに大きく変わります。BeebeejaunらがSkin Health and Disease誌2023年3巻3号に掲載した研究(論文番号e215)は、ヒトの摘出皮膚をフランツ拡散セルに載せ、0.1パーセントのモメタゾンフランカルボン酸エステル配合クリームを、三種類の保湿剤と組み合わせて24時間観察しました。条件ごとに6反復です。
試した順番は、外用薬のみ、外用薬の5分後に保湿剤、保湿剤の5分後に外用薬、外用薬の30分後に保湿剤、保湿剤の30分後に外用薬、そして1対1で混ぜたもの、の六通りでした。結果として、保湿剤の種類と順番の組み合わせによって、吸収量におよそ5倍の開きが生じました。
方向は一定ではありません。ある保湿剤を先に塗ってから外用薬を重ねた場合、外用薬だけを塗ったときと比べて皮膚への送達が最大2.5倍減りました(p値0.05未満)。一方、尿素を含む別の保湿剤では、順番にかかわらず吸収が約2倍に増えました。著者らは、30分の間隔をあけても保湿剤の影響を打ち消すには不十分かもしれないと述べています。
この二つの研究を並べると、話が噛み合わないように見えます。片方は臨床指標に差がないと言い、もう片方は届く量が倍半分変わると言っています。矛盾ではありません。順番は皮膚に届く量を確かに変えますが、その変化が人の目に見える結果になるとはかぎらない、というだけのことです。2週間の湿疹スコアでは拾えなかった差が、拡散セルの定量では拾えた、と読むのが素直です。
そして、この研究から引き出せるもっと重要な教訓は別にあります。順番そのものより、何と何を組み合わせたかのほうが効き方を大きく左右していました。尿素入りの保湿剤は順番に関係なく吸収を上げ、別の保湿剤は順番次第で下げました。「薄いものから」のような順番の一般則より、具体的な処方の相性のほうが支配的だということです。
では「薄いものから濃いものへ」に根拠はあるのですか
直接それを比べた試験は、今回の調査では見つかりませんでした。この指針を支えているのは、順番の試験ではなく、皮膚への浸透に関する間接的な知見の寄せ集めです。
一つ目は分子量です。BosとMeinardiがExperimental Dermatology誌2000年9巻3号165から169頁で提唱した「500ダルトンルール」は、角層を越えるには分子量がおよそ500ダルトン未満である必要がある、という経験則です。根拠として、ほぼすべての接触アレルゲンが500ダルトン未満であること、外用療法で使われる主要な薬剤がすべて500ダルトン未満であること、経皮吸収型製剤に使われる薬物がすべて500ダルトン未満であることが挙げられています。これは観察に基づく経験則であって、順番を論じた研究ではありません。
二つ目は閉塞と水分です。ZhaiとMaibachがSkin Pharmacology and Physiology誌で2001年に発表した総説は、皮膚の閉塞が角層の水分量を上げ、多くの物質の経皮吸収を増やすとまとめています。ただし効果は一様ではなく、脂溶性の高い分子ほど閉塞による増加が大きく、水溶性の分子では小さいという傾向が示されています。油性の製品を上に重ねると下の層の浸透が変わりうる、という発想の出どころはここです。
三つ目は処方のpHです。PinnellらがDermatologic Surgery誌2001年27巻2号137から142頁に報告した研究では、ブタの皮膚にL-アスコルビン酸を塗り、皮膚内濃度を測定しました。皮膚に入るにはpHが3.5未満である必要があり、最適濃度は20パーセント、3日続けて塗ると組織が飽和し、消失半減期はおよそ4日でした。誘導体では皮膚内のL-アスコルビン酸濃度は上がりませんでした。この研究が示しているのは「順番が効く」ではなく「処方が効く」であり、浸透の話の大半は順番ではなく処方の話です。
なお、商業サイトでよく見る「正しい順番で吸収が最大40パーセント向上する」といった数字については、一次資料を見つけられませんでした。出所は小売や化粧品ブランドのブログで、研究の引用もありません。本記事ではこの種の数値は採用しません。
| 成分 | 確認された条件 | 実験系 | 出典 |
|---|---|---|---|
| L-アスコルビン酸 | pH3.5未満で皮膚移行、至適濃度20パーセント、組織半減期約4日 | ブタ皮膚 | Pinnell 2001, Dermatol Surg 27(2):137-142 |
| ナイアシンアミド | pH0.4から11.3の加水分解速度を測定、速度極小はpH4から6の間 | 水溶液、89.4度 | Finholt and Higuchi 1962, J Pharm Sci 51(7) |
| グリコール酸など一般消費者向けAHA | 濃度10パーセント以下かつ最終pH3.5以上で安全と評価 | 安全性評価(文献レビュー) | CIR、米国FDAガイダンス2005年1月が引用 |
| サロン専用AHA | 濃度30パーセント以下かつ最終pH3.0以上、短時間で洗い流す条件 | 同上 | 同上 |
| 一般的な外用成分 | 角層通過には分子量500ダルトン未満という経験則 | 既知化合物の横断的観察 | Bos and Meinardi 2000, Exp Dermatol 9(3):165-169 |
順番が確実に結果を変える場面はどこですか
少なくとも三つあります。いずれも「気分の問題」ではなく、測定された差がある場面です。
一つ目は、洗った直後です。WilhelmらがJournal of Investigative Dermatology誌1991年96巻963から967頁に報告した研究では、0.5パーセントのラウリル硫酸ナトリウムで前処理した皮膚からの透過量が、ヒドロコルチゾンで5.9倍、インドメタシンで4.6倍、イブプロフェンで3.9倍、アシトレチンで3.4倍に増えました。経表皮水分蒸散量は4.5倍になっています。ただしこの実験はヘアレスモルモットを使ったin vitroの拡散セル試験であり、しかも刺激性皮膚炎を起こすための前処理です。日常の洗顔と同じではありません。
より日常に近い条件としては、FrankildらがContact Dermatitis誌1995年に報告した研究があります。0.25パーセント、4パーセント、10パーセントのラウリル硫酸ナトリウムで2時間前処理したところ、水とニッケルの透過に有意な用量反応関係が見られました。著者らは、この前処理が「洗浄する状況を模している」と明記しています。洗浄の直後は皮膚の通しやすさが変わっているので、洗顔との前後関係だけは、他のどの順番よりもはっきりした根拠があります。
二つ目は、日やけ止めの上に何かを重ねたときです。MontemaranoらがLancet誌1997年349巻1670から1671頁に報告した研究は、虫よけ成分ディートと日やけ止めを順番に塗ると紫外線防御効果が33.3パーセント低下したと報告しました。この数値は、同じ研究グループによる後続論文(Murphy 2000, J Am Acad Dermatol 43巻2号219から222頁)の冒頭で引用されています。筆者はLancet原著の全文を本稿執筆時に開けなかったため、33.3パーセントという数値はこの後続論文の記述を通じて確認したものです。
その後続論文自体も、順番の実験として読む価値があります。対照、日やけ止め単独(ジェルとクリーム)、虫よけ単独、虫よけを日やけ止めの前に塗った群と後に塗った群を含む8群で比較し、虫よけ側の有効性は日やけ止けを併用しても変わらなかったと結論づけています。つまり、二つの製品を重ねたとき、一方の性能は壊れて、もう一方は壊れませんでした。順番の影響は方向によって非対称であり、「重ねると両方薄まる」という直感は正しくありません。
この論点は2025年にParasites and Vectors誌で再検討されています。Charrasseらは、ヒトの摘出皮膚に日やけ止めと虫よけ(IR3535、35パーセント)を塗り、実験室UVB(300ミリジュール毎平方センチメートル)と自然光(UV指数8で2時間)を当てて、核1,911,251個を計算病理で解析しました。日やけ止め単独では未照射とほぼ同等の防御が得られた一方、虫よけを併用すると防御効果が有意に下がり、自然光条件では防御が消えたと報告しています。ただし第一実験は提供者1名の生検3検体、第二実験は3名の3検体であり、著者ら自身が「より多くの提供者での評価が不可欠」と書いています。
三つ目は、AHAと紫外線の時間差です。Cosmetic Ingredient Reviewの専門家パネルは1998年に、グリコール酸と乳酸およびその塩とエステルについて、一般消費者向けには濃度10パーセント以下かつ最終pH3.5以上、サロンでは濃度30パーセント以下かつ最終pH3.0以上で短時間使用し洗い流す条件で安全と評価し、いずれも日常的な紫外線対策の指示を伴うことを条件としました。2017年の再評価でもこの結論は維持されています。濃度4パーセントという低さでも紫外線に対する皮膚の反応が変わりうることが、ヒト臨床研究から示されています。
米国FDAは2005年1月のガイダンスで、AHA配合化粧品に次の表示を推奨しています。「Sunburn Alert: This product contains an alpha hydroxy acid (AHA) that may increase your skin's sensitivity to the sun and particularly the possibility of sunburn. Use a sunscreen, wear protective clothing, and limit sun exposure while using this product and for a week afterwards.」注意すべきは期間で、使用中だけでなくその後1週間とされています。
| よく言われる順番ルール | 根拠の有無 | 確認できた一次資料 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 洗浄の直後は皮膚の通しやすさが変わる | あり | Wilhelm 1991、Frankild 1995 | 動物またはin vitro、界面活性剤濃度は日常より厳しい条件 |
| 日やけ止めの上に別の製剤を重ねると防御が落ちることがある | あり | Montemarano 1997、Charrasse 2025 | 検証されたのは虫よけとの組み合わせ、化粧下地や保湿剤では未確認 |
| AHAを使った期間は紫外線対策を強める | あり | CIR評価、FDAガイダンス2005年1月 | 規制上の安全性評価であり、美容効果の順番とは別の論点 |
| 薄いテクスチャーから濃いテクスチャーへ | 直接の比較試験は見つからず | 間接的根拠のみ(500ダルトンルール、閉塞、pH) | 一般則としては成立していない |
| 層と層の間に数十秒待つ | 見つからず | なし | 30分の間隔でも影響を打ち消せない例が報告されている |
| 特定成分どうしは同時に使ってはいけない | ヒト皮膚での裏づけは見つからず | 溶液化学の論文のみ | 後述のとおり出どころは89.4度の実験 |
日やけ止めは、順番より何が大事ですか
量と塗り残しです。順番の議論より桁がひとつ大きい話です。FaurschouとWulfがBritish Journal of Dermatology誌2007年156巻716から719頁に報告した研究によれば、塗布量とSPFの関係は指数的な関係に最もよく当てはまりました(決定係数0.903)。表示SPFは1平方センチメートルあたり2ミリグラムで測定されますが、実際には4分の1程度しか塗られていないとされます。1平方センチメートルあたり1ミリグラムならSPFは平方根に、0.5ミリグラムなら4乗根まで落ちる計算になります。
塗り残しも同じくらい効きます。LourencoらがPLoS One誌2019年に報告した観察研究では、18歳から57歳の84名(女性62名、男性22名)が、SPF入り保湿剤と日やけ止めをそれぞれ顔に塗りました。塗れていない面積は、SPF入り保湿剤で16.6パーセント(標準偏差6.4)、日やけ止めで11.1パーセント(同5.0)でした(p値0.001未満)。まぶた周辺に限ると20.9パーセント対14.0パーセント、まぶた以外では13.6パーセント対9.5パーセントでした。著者らは、保湿剤のほうが小容量で販売されることや製剤の流動性の違いが交絡しうると断っています。
SPFが4乗根まで落ちうる量の問題と、顔の16パーセントが素通しになる塗り残しの問題の前では、化粧水の前か後かという議論は誤差の範囲です。紫外線側の数値の読み方は、UVAとUVBの波長比と窓ガラスの基準を数字で見る記事に分けて書いています。
ビタミンCとナイアシンアミドは重ねてはいけないのですか
その話の出どころは、皮膚の試験ではなく水溶液の反応速度論です。FinholtとHiguchiがJournal of Pharmaceutical Sciences誌1962年51巻7号に報告した研究は、ナイアシンアミドの加水分解の見かけの一次速度定数を、pH0.4から11.3の純水溶液中で測定しました。測定温度は89.4度です。速度のpHプロファイルには極小があり、それはpH4から6の間にありました。つまり、通常の製剤pHの範囲では反応はかなり遅い、というのがこの論文の結論です。
ナイアシンアミドとアスコルビン酸を混ぜると水溶液が黄色くなるという現象については、GuttmanとBrookeがJournal of Pharmaceutical Sciences誌1963年52巻941から945頁に報告しています(PMID 14076500)。筆者は本稿執筆時に書誌情報のみを確認し、本文を開けていません。したがってこの論文の中身を根拠にした主張は本記事では行いません。
整理すると、こうなります。ナイアシンアミドがニコチン酸に分解してほてりを起こすという説が立脚している実測は、89.4度の水溶液で得られたものです。皮膚の上の温度でも同じ速度で進むという測定値は、今回の調査では見つかりませんでした。また、両者を重ねたヒトで有害な結果が出たという臨床試験も見つかりませんでした。この禁忌は、否定された説というより、そもそも皮膚で検証されたことがない説です。ナイアシンアミド自体にどこまでのヒト試験があるかは、ナイアシンアミドの臨床エビデンスの範囲をまとめた記事で扱っています。
同じ構図は保湿成分にもあります。分子量によって届く深さが変わるという話と、実際にヒトで測った効果の話は別物です。この区別はヒアルロン酸の外用と経口と分子量を整理した記事のほうが詳しく書けています。
LEDを使う日は、塗るのが先ですか後ですか
この前後関係を直接比べた試験は、今回の調査では見つかりませんでした。ここは正直に書きます。以下は試験の結果ではなく、確認できた物理と光学の知見から言えることの範囲です。
まず、光は皮膚の表面にあるものを通ってから中に入ります。FinlaysonらがPhotochemistry and Photobiology誌2022年98巻974から981頁に報告したモンテカルロ放射輸送シミュレーションによれば、200から1000ナノメートルの範囲で、光の到達深度は皮膚の光学特性に従って波長とともに変化し、角層が薄いときには紫外線の到達深度が増しました。長い波長ほど深く届くという一般的な傾向はここで裏づけられます。ただしこれはシミュレーション研究であり、化粧品の層を挟んだ条件を計算したものではありません。
次に、皮膚の上に載った化粧品の層が可視光の作用を減らしうること自体は、ヒトで観察されています。DumbuyaらがJournal of Drugs in Dermatology誌2020年19巻7号712から717頁に報告した研究では、フォトタイプIVの被験者10名に対し、酸化鉄を含む製剤と含まないSPF50プラスの鉱物系日やけ止めを比較し、酸化鉄配合のほうが可視光による色素沈着を強く抑えました。注意点が二つあります。被験者は10名と少なく、測ったのは色素沈着であって光の透過率そのものではありません。したがって「塗ってからLEDを当てると効果が落ちる」とは言えず、言えるのは「表面に載せたものによって皮膚に届く可視光の作用は変わりうる」までです。
LED自体のエビデンスについても、都合のよい部分だけを書かないようにします。WunschとMatuschkaがPhotomedicine and Laser Surgery誌2014年32巻2号93から100頁に報告した前向き無作為化比較試験は、136名が参加し、113名を4つの治療群に割り付け、23名を対照としました。週2回、611から650ナノメートルまたは570から850ナノメートルの光(611から650ナノメートル域で約9ジュール毎平方センチメートルに正規化)を30回照射し、超音波によるコラーゲン密度、デジタルプロフィロメトリーによる皮膚粗さ、盲検下の写真評価、満足度を測定しました。両光源とも対照群に比べてコラーゲン密度と粗さと肌色の評価が有意に改善し、広帯域の多色光は赤色単独より優れてはいませんでした。
一方で、2023年にPMCで公開された赤色光フォトバイオモジュレーションの総説は、この領域の弱点を明記しています。「現時点で、発光ダイオードの出力の選択が最も有効であると検証できる比較研究は存在しない」こと、光生物学的調節が二相性の用量反応(アルント・シュルツ曲線)に従うため適切な線量の特定が容易ではなく、臨床応用において標準化されたプロトコルが欠けていることが述べられています。さらに同論文には、著者の一人が機器メーカーの最高経営責任者であり、もう一人が同社のコンサルタントであるという利益相反の開示があります。家庭用LED機器の分野は、効果が示された試験と、線量の標準化がないという自己申告と、メーカーが関与した研究が同じ棚に並んでいる状態です。
以上から、私たちが実務として採っている順番は次のとおりです。光を当てる前は素肌に近い状態にし、保湿と有効成分は照射後に重ねる。理由は、表面に不透明な層や散乱する粒子を載せないほうが、設計された線量に近い光が届くと考えられるからです。ただし繰り返しますが、これは理屈であって、前後を比べた試験の結果ではありません。本記事の自己採点表でもこの主張には低い点をつけています。機器側に関する日本の表示ルールは、EMS美顔器の薬機法上の表現範囲を整理した記事のほうが具体的です。
日本の法律は、使う順番について何か決めているのですか
化粧品については決めていません。医薬部外品については決めています。この非対称が、日本で順番の話が曖昧になりやすい制度的な理由です。
化粧品が広告で言える効能効果の範囲は、厚生労働省医薬食品局長通知「化粧品の効能の範囲の改正について」(薬食発0721第1号、平成23年7月21日)の別表に掲げられた56項目に限られます。たとえば第56項は「乾燥による小ジワを目立たなくする。」です。同通知には注も付いており、注2では「『皮膚』と『肌』の使い分けは可とする。」とされ、注3では括弧内が効能には含まれないが使用形態から限定するものである旨が示されています。この56項目のどこにも、使う順番や工程数に関する記述はありません。
一方、医薬部外品は品目ごとの承認を受ける必要があります。岡山県医薬安全課の公開ページは、承認の審査対象として「申請に係る医薬部外品の名称、成分、分量、構造、用法、用量、使用方法、効能、効果、性能、副作用その他の品質、有効性及び安全性の審査」を挙げています。つまり使用方法は医薬部外品では法的な審査事項ですが、化粧品では審査される対象ではありません。
もう一つ、順番の議論と密接に関わる表示ルールがあります。化粧品の広告で「浸透」と言う場合、作用部位が角質層であることを明記することが求められています。日本化粧品工業会の「化粧品等の適正広告ガイドライン」の解説によれば、「角質層へ浸透」「角質層のすみずみへ」は可、「肌へ浸透」や角質層を超えた浸透を暗示する表現は不可とされています。なお、この部分は団体ガイドラインの解説資料によるもので、法令そのものではありません。
この線引きは、順番の議論に直接効いてきます。日本の化粧品が制度上まとえる物語は角質層までで完結しており、「深く届かせるための順番」という発想自体が、表示上は成立しません。制度の条文から読み解く作法については、栄養機能食品の制度を条文から読む記事と、ミネラルの過不足を扱った亜鉛と髪と肌のエビデンス記事でも同じやり方を使っています。
この記事の主張は、それぞれどれくらい強いのですか
自己採点します。採点基準は、ヒトの比較試験があるかどうか、サンプルサイズ、実験系がヒトの皮膚かどうか、そして利害関係です。自社に都合のよい主張ほど厳しく見ています。
| 本文中の主張 | 証拠の種類 | 強さ | 減点した理由 |
|---|---|---|---|
| 順番を変えても湿疹の臨床スコアは変わらなかった | ヒト無作為化比較試験1件、46名、2週間 | 中 | 単一試験、小規模、短期間、対象は乳幼児の医薬品使用 |
| 順番と組み合わせで皮膚への送達量は最大約5倍変わる | ex vivoヒト皮膚、各条件6反復 | 中 | 生体ではない、外用ステロイド1剤と保湿剤3種に限定 |
| 洗浄直後は皮膚の通しやすさが変わる | 動物in vitro1件とヒト以外を含む前処理研究 | 中から弱 | 界面活性剤濃度が日常の洗顔より厳しい、動物モデル |
| 日やけ止めに別製剤を重ねると防御が落ちうる | ヒト試験1件とex vivo研究1件 | 中 | 検証されたのは虫よけのみ、ex vivo側は提供者1から3名 |
| SPFは塗布量に対して指数的に落ちる | in vivo試験、決定係数0.903 | 強 | 順番の論点ではなく量の論点 |
| SPF入り保湿剤は日やけ止めより塗り残しが多い | ヒト観察研究、84名、p値0.001未満 | 強 | 観察研究であり無作為化ではない、容器サイズの交絡を著者が明記 |
| ビタミンCとナイアシンアミドの併用禁忌に皮膚上の根拠はない | 不在の証明にあたる、関連研究は89.4度の溶液実験のみ | 弱(ただし反証もない) | 「試験が見つからない」は「安全」とは別 |
| LEDの前は素肌に近いほうがよい | 直接比較試験なし、光学シミュレーションと小規模ヒト研究からの推論 | 弱 | 自社が機器を扱う立場であり、推論を結論のように書かないよう特に注意した |
| 家庭用LEDの線量は標準化されていない | 総説における著者自身の記述 | 中 | 総説著者に機器メーカーとの利益相反の開示あり |
| 化粧品に承認された使用方法は存在しない | 厚生労働省通知と都道府県の公開文書 | 強 | 法令の読み方であり、効果の話ではない |
結局、今日から何をどう変えればよいのですか
順番を一から組み直す必要はありません。効き目の大きい順に、次の五つだけを見直せば足ります。
- 日やけ止めは順番より量を直します。表示SPFは1平方センチメートルあたり2ミリグラムの前提で測られており、足りなければ指数的に落ちます。
- 塗り残しを減らします。84名の研究で顔の11から17パーセントが塗れておらず、とくにまぶた周辺が抜けていました。
- 日やけ止めの上に別の製剤を重ねる場面では、重ねた側ではなく日やけ止め側の性能が落ちる可能性を前提にします。塗り直しは重ねるのではなく、塗り直しとして扱います。
- AHAを使う期間は、紫外線対策を使用後1週間まで延ばします。これは美容上の好みではなく、規制当局が表示を推奨している項目です。
- LEDを使う日は、照射前を素肌に近づけ、保湿と有効成分は照射後に回します。根拠は推論どまりなので、他の四つより優先度は下です。
逆に、やめてよいことも書いておきます。層と層の間の待ち時間を秒単位で管理すること、特定成分の組み合わせを朝晩に機械的に振り分けること、工程数を増やすこと。いずれも、ヒトの皮膚で検証された根拠を見つけられませんでした。順番を磨く努力の大半は、量と塗り残しと紫外線対策に振り替えたほうが、測れる差になります。
よくある質問
化粧水のあとに美容液、という順番は間違いなのですか
間違いだと言える根拠も、正しいと言える根拠も見つかりませんでした。順番を直接比べた試験が化粧品では行われていないため、現時点ではどちらとも断定できません。ただし、ex vivoの研究では相手の製剤しだいで送達量が倍半分動いたので、順番そのものより製品の組み合わせを気にするほうが合理的です。
層と層のあいだに何秒くらい待てばよいですか
待ち時間を決める根拠は見つかりませんでした。参考までに、外用ステロイドと保湿剤の研究では30分の間隔をあけても相手製剤の影響を打ち消せない可能性があると報告されています。数十秒という単位は、少なくともその研究の射程では意味を持ちません。
LEDマスクを使う前に美容液を塗ると、浸透が良くなりますか
それを検証した試験は見つかりませんでした。光と塗布物の前後関係を比べた研究自体が確認できていないため、良くなるとも悪くなるとも書けません。私たちは照射後に塗る運用を採っていますが、これは光学上の推論であり、試験で確かめた結論ではありません。
ビタミンCとナイアシンアミドは時間を空けるべきですか
空けるべきだという根拠は皮膚上では確認できませんでした。この説の土台にある反応速度の測定は89.4度の水溶液で行われたもので、顔の上の温度での測定値は見つかっていません。刺激を感じる場合に間隔を空けるのは個人の使い勝手の問題で、化学的な必然ではありません。
ピーリング製品を使った翌日は日やけ止めを強くするべきですか
規制当局はそう案内しています。米国FDAは2005年1月のガイダンスで、AHA配合製品に「使用中およびその後1週間」の紫外線対策を促す表示を推奨しています。翌日だけでなく1週間という期間設定である点が実務上の要点です。
工程を減らしても大丈夫でしょうか
工程数が多いほど良いという比較試験は見つかりませんでした。一方で、量と塗り残しが結果を大きく左右することは複数の研究で確認されています。続けられる工程数に減らして、そのぶん一回あたりの量と塗りむらを整えるほうが、測れる差につながりやすいと考えています。
本記事の位置づけ
本記事は情報提供を目的としたものであり、疾病の診断・治療・予防を目的としたものではありません。
本文で引用した外用ステロイドやその他の医薬品に関する研究は、浸透と順番という物理的な論点を説明するために参照したものであり、化粧品がそれらと同じ作用を持つという意味ではありません。化粧品の効能効果は、前述の56項目の範囲に限られます。肌の状態に不安がある場合は、自己判断で製品を重ねる前に専門機関にご相談ください。
出典
公的機関の文書
- 厚生労働省医薬食品局長通知「化粧品の効能の範囲の改正について」薬食発0721第1号、平成23年7月21日 法令等データベース本文、PDF版
- 岡山県保健医療部医薬安全課「医薬部外品を製造・製造販売される方へ」 https://www.pref.okayama.jp/page/267755.html
- U.S. Food and Drug Administration. Guidance for Industry: Labeling for Cosmetics Containing Alpha Hydroxy Acids. January 2005 FDAガイダンスページ
査読論文
- Ng SY, Begum S, Chong SY. Does Order of Application of Emollient and Topical Corticosteroids Make a Difference in the Severity of Atopic Eczema in Children? Pediatric Dermatology. 2016年33巻2号160-164頁. PMID 26856694. doi:10.1111/pde.12758 Europe PMCの記録
- Beebeejaun MT, Brown MB, Hutter V, Kravitz L, McAuley WJ. Skin permeation and penetration of mometasone furoate in the presence of emollients: An ex vivo evaluation of clinical application protocols. Skin Health and Disease. 2023年3巻3号e215. doi:10.1002/ski2.215 PMC全文
- Pinnell SR, Yang H, Omar M, Monteiro-Riviere N, DeBuys HV, Walker LC, Wang Y, Levine M. Topical L-ascorbic acid: percutaneous absorption studies. Dermatologic Surgery. 2001年27巻2号137-142頁. PMID 11207686 Europe PMCの記録
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- Wilhelm KP, Surber C, Maibach HI. Effect of sodium lauryl sulfate-induced skin irritation on in vitro percutaneous absorption of four drugs. Journal of Investigative Dermatology. 1991年96巻963-967頁. PMID 1828478 Europe PMCの記録
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- 赤色光フォトバイオモジュレーションに関する総説(著者にLucibel Group関係者の利益相反開示あり)PMC全文
一次資料ではない資料(検索結果の要約、団体ガイドラインの解説、業界誌)
- Zhai H, Maibach HI. Effects of Skin Occlusion on Percutaneous Absorption: An Overview. Skin Pharmacology and Physiology. 2001年(本稿では抄録の要約のみを参照) ScienceOpenの記録
- Dumbuya H, 他. Impact of Iron-Oxide Containing Formulations Against Visible Light-Induced Skin Pigmentation in Skin of Color Individuals. Journal of Drugs in Dermatology. 2020年19巻7号712-717頁(本稿では書誌情報と要約のみを参照。L'Oréal USA Research and Innovationによる研究)
- Wunsch A, Matuschka K. A Controlled Trial to Determine the Efficacy of Red and Near-Infrared Light Treatment in Patient Satisfaction, Reduction of Fine Lines, Wrinkles, Skin Roughness, and Intradermal Collagen Density Increase. Photomedicine and Laser Surgery. 2014年32巻2号93-100頁(出版社サイトが取得不可のため、抄録の要約を参照) Semantic Scholarの記録
- Cosmetic Ingredient Review. Safety Assessment of Alpha Hydroxy Acids as Used in Cosmetics(本稿では米国FDAガイダンスが引用した結論部分を参照) CIRの報告書PDF
- 日本化粧品工業会「化粧品等の適正広告ガイドライン」についての解説資料(京都府薬務課サイト掲載。団体ガイドラインの解説であり法令本文ではありません) 京都府サイト掲載PDF