マルチビタミンは意味があるのか:大規模試験が示したこと

21,442人のCOSMOSと14,641人のPhysicians' Health Study II を主要評価項目のまま読み直し、がんと心血管疾患について明確な利益が示されていないこと、認知機能だけは3年の試験と14年の試験で結論が割れていることを一次資料で確認しました。日本の栄養機能食品の規格基準と食事摂取基準2025年版の耐容上限量も並べ、本記事の主張を自己採点した表を付けています。

マルチビタミンは、サプリメントの棚でもっとも長く売られ続けてきた商品のひとつです。一日一粒で必要な栄養素がまとめて摂れるという説明はわかりやすく、価格も手に取りやすい水準に収まっています。ところが、この分野は健康食品のなかでは珍しく、大規模で長期の無作為化比較試験(参加者をくじ引きで本物とプラセボに割り付けて比べる研究)が何本も実施されてきた領域でもあります。そして、その結果の多くは否定的でした。

この記事は、その否定的な結果を薄めずに並べるためのものです。先に結論を書いておきます。がんと心血管疾患の発症を主要評価項目に据えた二つの大規模試験は、いずれもマルチビタミンの明確な利益を示していません。米国予防医療専門委員会は2022年6月21日、マルチビタミンについて利益と害のバランスを判断する根拠が不十分だという結論を出しました。一方で、認知機能という別の評価項目については小さいながら統計的に有意な差が報告されており、ここだけは評価が割れています。そして日本の表示制度に目を移すと、パッケージの「栄養機能食品」という表示は、その製品で試験が行われたことを意味していません。

私たちはサプリメントを扱う立場です。だからこそ、この記事では自社に不利な事実も同じ字の大きさで書きます。数値はすべて一次資料にあたり、試験名、人数、追跡期間、信頼区間、そして主要評価項目か副次解析かの区別まで書き添えました。最後に、本記事の主張をひとつずつ自己採点した表を置いています。

マルチビタミンは、がんや心血管疾患の発症を減らしたのでしょうか

答えを先に書くと、二つの大規模試験のうち片方はごくわずかな差、もう片方は差なしという結果でした。どちらも、広告が期待させるような大きさではありません。

ひとつめはCOSMOS(COcoa Supplement and Multivitamin Outcomes Study)です。米国で行われた無作為化二重盲検プラセボ対照の2×2要因試験で、参加者は21,442人、内訳は65歳以上の女性12,666人と60歳以上の男性8,776人でした。重い心血管疾患の既往や最近のがん診断がない人が対象で、介入期間は2015年6月から2020年12月までです。主要評価項目は非黒色腫皮膚がんを除く浸潤がんでした。

追跡期間の中央値3.6年で、浸潤がんはマルチビタミン群518人、プラセボ群535人に発生し、ハザード比は0.97(95%信頼区間0.86から1.09、P=0.57)でした。心血管疾患の複合評価項目はマルチビタミン群429人、プラセボ群437人で、ハザード比0.98(95%信頼区間0.86から1.12)です。総死亡はハザード比0.93(95%信頼区間0.81から1.08)でした。いずれも有意差はありません。

この試験には、よく引用される数字がひとつあります。副次的な解析で、肺がんがハザード比0.62(95%信頼区間0.42から0.92)と低く出たのです。ただし肺がんは主要評価項目ではありません。多数の部位を副次的に調べたうちのひとつだけが有意になった場合、それは次の仮説を作る材料であって、結論ではありません。同じ副次解析で、乳がんはハザード比1.06(0.79から1.42)、大腸がんは1.30(0.80から2.12)と、方向はむしろ逆に出ています。肺がんの数字だけを取り出して紹介するのは、公平な引用ではありません。

ふたつめはPhysicians' Health Study II です。米国の男性医師14,641人を対象に、追跡期間の中央値11.2年でマルチビタミンを検証しました。総がん発症はハザード比0.92(95%信頼区間0.86から0.998、P=0.04)で、統計的には有意です。ただし信頼区間の上端は1.00のすぐ手前にあり、余裕はほとんどありません。前立腺がんはハザード比0.98(0.88から1.09、P=0.76)、がん死亡は0.88(0.77から1.01、P=0.07)で、いずれも有意ではありませんでした。

同じ集団で心血管疾患を主要評価項目にした報告では、主要心血管イベントのハザード比は1.01(95%信頼区間0.91から1.10、P=0.91)でした。心筋梗塞0.93(0.80から1.09、P=0.39)、脳卒中1.06(0.91から1.23、P=0.48)、心血管死0.95(0.83から1.09、P=0.47)で、十年を超える服用のあとでも差はありません。

米国予防医療専門委員会(USPSTF)は2022年6月21日、地域在住の非妊娠成人を対象として、マルチビタミンについてグレードI、つまり根拠不十分という結論を公表しました。同時にβ-カロテンとビタミンEについてはグレードD、使用しないよう勧告しています。グレードIは「効かないことが証明された」という意味ではなく、「現在の根拠では判断できない」という意味です。この区別は重要で、どちらの方向にも都合よく読み替えられがちな部分です。

この勧告の根拠になった系統的レビューは84件の研究、合計739,803人を統合したものです。マルチビタミンとがん発症のプール推定はオッズ比0.93(95%信頼区間0.87から0.99、無作為化試験4件、48,859人)でした。検出力が十分な試験における絶対的なリスク減少は0.2%から1.2%の範囲です。相対的な数字は目を引きますが、絶対値に直すと一年あたりの差は非常に小さくなります。

表1 マルチビタミンを検証した主な大規模研究
研究 対象 追跡 主要評価項目 結果
COSMOS 21,442人(女性65歳以上、男性60歳以上) 中央値3.6年 浸潤がん HR 0.97(0.86から1.09、P=0.57)差なし
COSMOS(副次) 同上 同上 心血管複合、総死亡 HR 0.98(0.86から1.12)、HR 0.93(0.81から1.08)差なし
Physicians' Health Study II 男性医師14,641人 中央値11.2年 総がん HR 0.92(0.86から0.998、P=0.04)わずかに有意
Physicians' Health Study II 同上 同上 主要心血管イベント HR 1.01(0.91から1.10、P=0.91)差なし
USPSTF系統的レビュー 84研究739,803人(うちMVMは4試験48,859人) 研究により異なる がん発症の統合 OR 0.93(0.87から0.99)絶対差0.2%から1.2%

認知機能については、なぜ評価が割れているのでしょうか

評価項目を認知機能に変えると小さな有意差が出ており、しかしそれより長く追跡した別の試験は差を見つけていないからです。この分野は、肯定と否定が同じ強さでぶつかっている珍しい場所です。

COSMOSの参加者のうち2,262人(平均73歳、女性60%)を電話で3年間追跡したCOSMOS-Mindでは、全般的認知機能の複合スコアがマルチビタミン群で有意に高い結果でした。差はz=0.07(95%信頼区間0.02から0.12、P=0.007)です。同じ試験で比較されたカカオ抽出物はz=0.03(-0.02から0.08、P=0.28)で、差はありませんでした。心血管疾患の既往がある人ではz=0.14(-0.02から0.31)、既往のない人ではz=0.06(0.01から0.11)で、交互作用のP値は0.01でした。

COSMOSのなかの3つの認知サブ研究、合計5,203人を統合したメタ解析では、全般的認知機能で0.07標準偏差単位(0.03から0.11、P=0.0009)、エピソード記憶で0.06標準偏差単位(0.03から0.10、P=0.0007)という結果が報告されています。著者らはこの大きさを、認知の加齢を2年分遅らせる程度と表現しています。臨床試験の世界では、これは小さいながら本物として扱われる大きさです。

ところが、Physicians' Health Study II の認知機能に関する報告は逆の結論でした。65歳以上の男性医師5,947人を対象に、1997年から2011年6月まで、つまり14年間にわたって服用を続けた解析です。全般的認知機能の変化の差は-0.01標準偏差単位(95%信頼区間-0.04から0.02)でした。言語記憶も-0.005標準偏差単位(-0.04から0.03)で、どちらも差はありません。著者らは、65歳以上の男性医師において長期のマルチビタミン使用は認知面の利益をもたらさなかったと結論しています。

同じ介入について、3年の試験が小さな有意差を出し、14年の試験が差を出していないとき、期間の長いほうを軽く扱う理由はありません。公平に読むなら、注意すべき点はさらに三つあります。第一に、COSMOSの3つの認知サブ研究は同じ試験集団と同じ研究グループから出ており、独立した追試ではありません。第二に、0.07標準偏差という差が、個人が日常生活で自覚できる大きさかどうかは別の問題です。第三に、COSMOS-Mindの認知評価は電話で行われており、対面の神経心理検査と完全に同じものを測っているとは限りません。

表2 認知機能を評価した研究の比較
研究 人数 期間 全般的認知機能の差 判定
COSMOS-Mind 2,262人 3年 z=0.07(0.02から0.12、P=0.007) 有意だが小さい
COSMOS内3研究のメタ解析 5,203人 2年から3年 0.07 SD(0.03から0.11、P=0.0009) 有意だが同一集団由来
Physicians' Health Study II 男性医師5,947人 14年 -0.01 SD(-0.04から0.02) 差なし

観察研究では良い結果が出るのに、試験では出ないのはなぜでしょうか

サプリメントを毎日飲む人は、もともと健康的な生活を送っている割合が高いからです。この偏りは統計処理で完全には消せません。

米国国立がん研究所などのグループは、3つの前向きコホートを統合した解析を2024年6月26日に公表しました。内訳はNIH-AARP Diet and Health Study 327,732人、PLCOがん検診試験42,732人、Agricultural Health Study 19,660人で、合計390,124人です。20年を超える追跡のあいだに164,762人が死亡しています。毎日マルチビタミンを飲む人の総死亡のハザード比は、追跡前半で1.04(95%信頼区間1.02から1.07)、後半で1.04(95%信頼区間0.99から1.08)でした。結論は、マルチビタミンの使用は死亡率の利益と関連しなかった、というものです。

この1.04という数字を、マルチビタミンが寿命を縮める証拠として読むのは誤りです。著者らも国立がん研究所の解説も、二つの偏りを明示しています。ひとつは、サプリメントを使う人がもともと健康的な生活習慣を持ちやすいという方向の偏りです。もうひとつは、体調を崩した人が後からサプリメントを増やすという逆因果です。前者は効果を過大に、後者は過小に見せます。観察研究はこの二つを完全には取り除けません。

だからこそ、同じ疑問に無作為化試験が答えを出している場合は、試験の結果のほうを重く見ます。そしてマルチビタミンの場合、その試験の結果が前の章で見たとおりなのです。観察研究の肯定的な見出しと、無作為化試験の否定的な結果が並んでいたら、後者を採るのが順序として正しい読み方です。

日本の表示制度では、マルチビタミンは何を言えるのでしょうか

決められた成分が決められた量だけ入っていれば、決められた文章だけを書けます。それ以上でも、それ以下でもありません。

消費者庁によれば、栄養機能食品は個別の許可申請を必要としない自己認証制度です。対象はn-3系脂肪酸1種類、ミネラル6種類、ビタミン13種類の合計20成分です。一日当たりの摂取目安量に含まれる栄養成分の量が、食品表示基準別表第11に定められた下限値と上限値の範囲に入っていれば、同じ表に定められた定型の機能表示をそのまま書くことができます。

ここが、多くの人が読み違える点です。栄養機能表示は、その製品で試験が行われたことを意味しません。成分の量が枠に収まっているという事実だけを意味します。したがって、同じ文章がどの会社の製品にも同じように並ぶことになります。文章が同じである以上、そこに書かれた内容で製品を比べることはできません。

制度はさらに、注意喚起表示も義務づけています。すべての成分に共通する一文は「本品は、多量摂取により疾病が治癒したり、より健康が増進するものではありません。一日の摂取目安量を守ってください。」です。ビタミンAには「妊娠三か月以内又は妊娠を希望する女性は過剰摂取にならないよう注意してください。」が加わります。亜鉛には、銅の吸収を阻害するおそれがあるため過剰摂取に注意する旨と、乳幼児と小児は摂取を避ける旨が付きます。ビタミンKには、血液凝固阻止薬を服用している人は摂取を避ける旨が付きます。そしてパッケージには「本品は、特定保健用食品と異なり、消費者庁長官による個別審査を受けたものではありません。」と書かなければなりません。

表3 栄養機能食品の規格基準(食品表示基準別表第11からの抜粋、単位は原典のまま)
成分 下限値(一日) 上限値(一日) 定められた機能表示
ビタミンA 231 µg 600 µg 夜間の視力の維持を助ける栄養素です
ビタミンD 1.65 µg 5.0 µg 腸管でのカルシウムの吸収を促進し、骨の形成を助ける栄養素です
ビタミンE 1.89 mg 150 mg 抗酸化作用により、体内の脂質を酸化から守り、細胞の健康維持を助ける栄養素です
ビタミンC 30 mg 1,000 mg 皮膚や粘膜の健康維持を助けるとともに、抗酸化作用を持つ栄養素です
ビタミンB12 0.72 µg 60 µg 赤血球の形成を助ける栄養素です
葉酸 72 µg 200 µg 赤血球の形成を助ける栄養素です
鉄 2.04 mg 10 mg 赤血球を作るのに必要な栄養素です
亜鉛 2.64 mg 15 mg 味覚を正常に保つのに必要な栄養素です
カルシウム 204 mg 600 mg 骨や歯の形成に必要な栄養素です

機能性表示食品は別の枠です。こちらは届出制で、消費者庁が個別に審査して許可する仕組みではありません。科学的根拠をそろえて適正に表示する責任は事業者側にあります。国の個別審査を経ているのは特定保健用食品(トクホ)だけです。総合的な栄養補給をうたうマルチビタミン製品は、実務上は栄養機能食品の枠に入るか、制度上の区分を持たないいわゆる健康食品として売られています。表示の読み方については栄養機能食品制度の記事とサプリメントの表示と用量の読み方で詳しく書いています。

表4 日本の四つの区分と、それぞれが保証していること
区分 国の関与 表示できる内容 根拠の所在
特定保健用食品 消費者庁長官の個別許可 許可された保健の用途 製品ごとの試験
機能性表示食品 届出のみ、個別審査なし 届出した機能性 事業者が用意した根拠
栄養機能食品 届出も許可も不要な自己認証 20成分について定型文のみ 成分量が規格内であること
いわゆる健康食品 制度上の区分なし 機能の表示は不可 制度としては存在しない

多めに摂ると、どこから危ないのでしょうか

脂溶性ビタミンには上限があり、その数値は日本の基準ではっきり決められています。ただし、危険が生まれる典型的な場面は一製品の飲み過ぎではなく、製品の重ね飲みです。

日本人の食事摂取基準(2025年版)では、成人のビタミンAの耐容上限量は2,700 µgRAE/日です。これは、肝臓障害が現れた最低量を13,500 µgRAE/日と置き、不確実性因子5で割って算出された値です。妊婦については、健康障害非発現量4,500 µgRAE/日と不確実性因子1.5から3,000 µgRAE/日が計算されますが、報告書は成人と同じ2,700 µgRAE/日を参考とすることが望ましいとしています。ビタミンDの耐容上限量は成人で100 µg/日です。ビタミンEは、健康な成人の健康障害非発現量を800 mg/日とし、算定値がこれを超える場合には800 mg/日を上限に設定しています。

同じ報告書は、ビタミンAの過剰摂取による健康障害が報告されているのは、サプリメントを大量に摂取した場合か、動物の肝臓を大量に摂取した場合であると明記しています。つまり、通常の食事だけで上限を超えることは想定されていません。

表5 栄養機能食品の上限と、食事摂取基準2025年版の耐容上限量の距離
成分 栄養機能食品の上限(一日) 耐容上限量(成人、一日) 倍率のめやす
ビタミンA 600 µg 2,700 µgRAE 約4.5倍の余裕
ビタミンD 5.0 µg 100 µg 約20倍の余裕
ビタミンE 150 mg 800 mg(健康障害非発現量に基づく上限) 約5.3倍の余裕

栄養機能食品を目安量どおりに一種類だけ飲んでいる限り、耐容上限量に届くことはまず起こりません。問題が起きるのは、同じ成分を含む製品を何種類も重ねたときです。マルチビタミンに加えて単一成分のサプリメントを足し、さらに強化食品を摂ると、成分表を足し算しないかぎり合計は誰にも見えなくなります。成分ごとの過不足については亜鉛の過不足に関する記事でも同じ論点を扱っています。

もうひとつ、はっきりした害の例があります。USPSTFがβ-カロテンに反対勧告を出した根拠は、肺がんのオッズ比1.20(95%信頼区間1.01から1.42、無作為化試験4件、94,830人)と、心血管死のオッズ比1.10(95%信頼区間1.02から1.19、5件、94,506人)でした。これは、栄養素のサプリメントが中立な存在ではなく、対象と用量を間違えれば害になりうることを示した数少ない明確な例です。効かないかもしれないから飲んでおこう、という発想がなぜ危ういかは、この一点に尽きます。

では、誰にとって意味がありそうなのでしょうか

足りていない人です。足りている人が足すことの利益は、これまでの大規模試験では示されていません。

栄養素の補給が明確に意味を持つ場面は、実際に存在します。妊娠を計画している女性の葉酸、月経のある女性の鉄などがその例で、いずれも対象が絞られていて、必要量も公的な基準に書かれています。この切り分けについては鉄と葉酸は誰に足りていないのかの記事で、日本の基準をそのまま読み直しました。

ここでマルチビタミンという形式そのものに問題が出てきます。全部入りであることの代償として、必要なひとつを必要な量だけ入れることができません。葉酸が目的なら、栄養機能食品の枠では一日200 µgが上限です。鉄が目的なら10 mgが上限です。一方で、同じ一粒には自分に必要のない成分も同じように入ってきます。不足している成分だけを狙って補うなら、単一成分の製品のほうが量を合わせやすいという構図になります。

もうひとつ、日本語で読む人にとって見落とされやすい限界があります。本稿で参照できた大規模試験は、COSMOSもPhysicians' Health Study II も、3つのコホート解析も、すべて米国で実施されたものです。食事の内容も、基準として使われる摂取量も、日本とは異なります。米国の否定的な結果を日本にそのまま当てはめてよいかどうかは、それ自体がまだ答えの出ていない問題です。ただし、これは肯定側にも同じ重さでかかる限界です。米国の肯定的な副次解析を日本に持ち込むことも、同じ理由で慎重であるべきです。

この記事の主張は、どこが強くてどこが弱いのでしょうか

強いのは制度と公的基準の記述、次に強いのが主要評価項目の試験結果、弱いのは認知機能の解釈と日本への外挿です。以下の表で、主張をひとつずつ自己採点しました。

表6 本記事の主張と根拠の強さ(自己採点)
主張 根拠の種類 強さ
栄養機能食品の上限下限と定型文は法令で決まっている 消費者庁の規格基準(食品表示基準別表第11) 強い。行政文書そのもの
ビタミンAの耐容上限量は成人2,700 µgRAE/日 厚生労働省の策定検討会報告書 強い。算出根拠まで公開されている
マルチビタミンは浸潤がんの発症を有意に減らさなかった COSMOSの主要評価項目、21,442人 強い。主要評価項目の無作為化試験
心血管イベントに対する効果は示されていない PHS II 14,641人、11.2年 強い。長期の無作為化試験
総がんへの効果はあっても非常に小さい PHS II のHR 0.92、統合OR 0.93、絶対差0.2%から1.2% 中。有意だが区間の上端が1.00に接する
認知機能に小さな利益があるかもしれない COSMOS系3研究5,203人のメタ解析 弱い。同一集団由来で、より長期の試験は差なし
肺がんが減るかもしれない COSMOSの副次解析 弱い。多重比較を経た副次結果、単独で引用すべきでない水準
米国の結果は日本にそのまま当てはめにくい 食事内容と基準値の相違という論理 弱い。直接検証した研究を示せていない
製品を重ねると上限に近づく 公的な上限値と製品表示からの演繹 中。論理は明快だが実測データは示していない

私たちが扱う商品カテゴリーも、この表でいえば根拠の弱い側に並びます。単一成分のサプリメントであれば事情が違うかというと、そうとも限りません。成分ごとに根拠の強さは大きく異なり、ヒト試験の数も質もばらつきます。同じ姿勢で検証した例としてコエンザイムQ10の記事とアスタキサンチンの記事を置いています。どちらも、言えることと言えないことの線を引いたうえで書いています。

よくある質問

いま飲んでいるマルチビタミンは、やめたほうがよいのでしょうか

この記事は、やめるべきだともやめるべきでないとも言いません。試験が示しているのは、健康な成人がマルチビタミンを飲んでも、がんと心血管疾患の発症率に大きな差は出なかったという事実です。害についても、目安量の範囲で飲む分には試験で安全上の懸念は報告されていません。判断材料としては、自分が何を期待して飲んでいるのか、その期待に対応する数字がこの記事のどこかにあるかを見るのがよいと思います。持病があるかたや服薬中のかたは、かかりつけの医療機関にご相談ください。

食事から摂れば十分なのでしょうか

大半の栄養素については、通常の食事で耐容上限量を超えることはないと食事摂取基準の報告書に書かれています。一方で、不足のほうは人によって事情が異なります。月経、妊娠の計画、極端な食事制限、高齢による食事量の低下などは、特定の成分が足りなくなりやすい条件です。全員に共通の答えはなく、成分ごとに自分が当てはまるかを見るほうが実際的です。

「栄養機能食品」と書いてあれば、効果が確かめられたということでしょうか

違います。栄養機能食品は届出も個別の許可も不要な自己認証制度で、一日当たりの摂取目安量に含まれる成分量が規格の範囲に入っていれば、定められた文章を書くことができます。製品そのものの試験は前提になっていません。パッケージにも「本品は、特定保健用食品と異なり、消費者庁長官による個別審査を受けたものではありません。」と書くことが義務づけられています。

認知機能のために飲む価値はあるのでしょうか

現時点では、判断が割れていると書くのが正確です。COSMOSの3研究5,203人を統合したメタ解析は0.07標準偏差単位の有意な差を報告していますが、同じ介入を14年間続けたPhysicians' Health Study II の解析は-0.01標準偏差単位、つまり差なしでした。肯定側の根拠が同一の試験集団から出ている点も、割り引いて読む理由になります。独立した研究グループによる追試が出るまでは、期待の置きどころとしては弱い部類です。

高価なマルチビタミンのほうが良いのでしょうか

価格と根拠は別の軸です。ここまで見てきた試験はいずれも市販の一般的なマルチビタミンを使っており、高価格帯の製品が別の結果を出したという大規模試験は確認できませんでした。比べられるのは成分の種類と一日当たりの量で、これは表示を見れば誰でも足し算できます。すでに飲んでいる製品がある場合は、重複する成分の合計を確認するほうが、価格帯を上げるより意味があります。

妊娠を考えている場合はどうすればよいのでしょうか

この場合だけは、対象と必要量が公的にはっきり示されている領域です。同時に、ビタミンAについては栄養機能食品の注意喚起に「妊娠三か月以内又は妊娠を希望する女性は過剰摂取にならないよう注意してください。」と明記されており、増やす方向と減らす方向が同じ製品のなかに同居します。マルチビタミンという形式がこの両立を難しくする典型例です。具体的な量については、鉄と葉酸の記事で基準の数値をそのまま整理しています。かかりつけの医療機関にご相談のうえで判断してください。

出典

各論文の抄録の数値は、Europe PMCの公開APIに収載された抄録原文で確認しました。学術論文へのリンクはDOIを経由しており、出版社のページに解決します。

本記事は情報提供を目的としたものであり、疾病の診断・治療・予防を目的としたものではありません。

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